ワンダーホール


面白いものだと思う


伝えたいという想いは何かを表現していくことの
最初のきっかけなのだろう


けれど 伝えるということは思いの他 難しい


感情のままでは流れ過ぎてしまう


あれっと戸惑い もう一度見つめなおす


そうすると穴があく


今度は 投げ出した思いを少しづつ削ってみる


削った後に
空白が支えている大きな存在に気がついたりもする
ジャコメッティの彫刻のネガティブスーペースのように


近寄ったり 離れたり 対極な思いが重なったり


そうして気持ちの周りをぐるぐるまわる


ぐるぐるまわると遠心力で大気圏から飛び出してしまい
そうになるので 重力ベルトのスイッチをいれる


ゆっくり降りてこれると良いのだが 私はまだ初心者


ドスンとおっこちると
さっき見つめて開いた穴にすっぽりはまってしまった



ある日ユニオンスクウェアーをぶらぶら歩いていたら
気持ち良さそうに歌う人達に出会った


この人達は伝えたいことを
何度も何度も繰り返している


大きな声を張り上げ 楽器を鳴らし
歌うという行為を純粋に楽しんでいるようだ


もしかしたら 伝えたいことさえ
どうでもよくなっているのかもしれない


大きく響きわたる声が私の体を包み込んで
自然にリズムを刻みだす


気がついたら 私の財布から
コインが綺麗な放物線を描いて
彼らの籠の穴にすっと消えてしまっていた